トーンマイスターワークショップ2016とショパンのバラ1

7/3、名古屋芸術大学 音楽文化創造学科 サウンド・メディアコースの公開講座「トーンマイスターワークショップ2016」に参加しました。
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開催場所は愛知県碧南市にあるエメラルドホール。

ドイツ・ベルリンから第一線で活躍しているトーンマイスターを招き、クラシック音楽における録音、今回はピアノのセッション録音について学びました。

特別客員教授はエバハート・ヒンツさん。
通訳に同じくベルリンでトーンマイスターとして活躍するアキ・マトゥッシュさん。
アキさんは佐渡裕の指揮するオーケストラ・トーンキュストラーが出したCDのセッション録音を行った方です。(CDはコチラ

講義は主に以下の内容でした。

<1>ドイツで行われてきた録音
<2>音楽録音の哲学
<3>セッション録音の方法
<4>ピアノ録音の事例
<5>マイクアレンジ
<6>実際のセッション録音を行い見学
∟ショパン バラード第一番
∟ドビュッシー 前奏曲集第2集より「花火」
<7>スコアへの書き込み方について
<8>録音後の編集について

ヒンツさんが東ドイツ時代のVEBドイツシャルプラッテンというレーベルで録音に携わってきたお話や、録音に対する哲学、それは音楽に対する愛やアイデアでありとても貴重な興味深いお話を聞けました。

セッション録音はライブ録音とは違って、何テイクか重ねて、それらをつなぎ合わせて’Best Of’を作ることです。
ライブ録音はその空間に鳴ってる音を良い状態で録音することが大事ですが、セッション録音の場合、良い音で録るのはもちろんのこと、その空間の響きが演奏する曲と合っているか(=Epochという語を用いておられました。つまりその曲の時代性を大事にされているということでしょうか)を考えた上でマイク位置など調整することが大事とのこと。
そしてつないだものを聞いても、コンサートで聞いているときと同じようなおもしろさを味わえることをゴールとしているとも話していました。

さて、こういうセッション録音(言い方は悪いですがつぎはぎのもの)について、特にクラシック音楽をやってる人は抵抗がある人も多くいると思います。
私も初めはそうでした。音楽は時間芸術なんだからつぎはぎでいいものを作るより一回きりの中にすべてを込めるべきだという考え方でした。
それはそもそも録音についての考え方が、’録音とは鮮度そのまま冷凍保存!’みたいに捉えていたからです。
それはレコードという単語がrecord=記録するという意味があるので、そう捉えてしまう側面があるのかもしれません。
でも名芸の長江先生のお話を聞いたり、今回のセミナーのお話を聞いて考え方が変わりました。
録音は楽曲の良さを最大限に閉じ込めることのできる作品作りだということです。

生の音楽と比較するものでもなく、それは一つの作品である。

人間の記憶は曖昧なものです。過ぎ去っていく時間のなかに散りばめられた音は記憶になるとき音そのものが残るのではなくおそらく、音が印象となりその印象が心に残ります。(なぜなら頭で再生する音はもはや実際の音とは違うから。)
録音物はパッケージ化することで、その音にいつでもアクセスできることになります。だからこそ自分の納得いく表現をする必要があります。
そういう視点で考えたとき、セッション録音はクラシック音楽にむしろ向いているのではないかと思えてきました。楽曲に対して、作曲家が書いた音に対しての理解、解釈をしっかり反映させた作品作りができ、それを聴いてもらう人にそのまま届けることができるからです。
グレン・グールドがコンサート活動をパタリとやめて録音に向かった気持ちがわかる気がします。

長くなりましたが、つぎはぎがわかるものを作るのではなく、あくまで自然に聞こえる良いものを作るのだから、それがつぎはぎであろうがなかろうが良いものは良い!ということです。

 

おもしろかった話。
ドイツのレコーディングによく使われるドレスデンにあるルカ教会。
early reflectionを近くするために木のボードを立てたり、また響きが多すぎるなというときは家から毛布やら布を持ってきて吊るしたりしたとのことです。

マイクアレンジについては、Omni 2本だけの録音の良さ、Omni+Spot+Roomの良さや何種類かのマイクによる音の違いの実験でした。
難しい理論の話も・・・

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実際のセッション録音も目の前で見ることができました。

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トーンマイスターは、単に録音の技術屋さんではなく、音楽的に深い造詣をもってディレクションを行います。指揮者、演奏者の意向を汲み取りながらも音楽づくりに踏み込んでサジェスチョンします。
楽譜の読解能力は相当なものです。

ショパンのバラード1番の録音、ヒンツさんのアドバイスを聞いて私はこの曲のなかに一つ発見をしました。
その昔10年以上前にこの曲を弾いたとき、冒頭前奏部分に不自然に表れる付点のリズム(5小節目)
が変だなぁと思っていました。rubatoな楽想のなかの揺れみたいなものかなと解釈していました。
セッション録音の際、このリズムのニュアンスをちゃんと出すことをヒンツさんは奏者に要求していました。
それが、曲が進むと146小節でまた付点のリズム(楽譜上付点はついてないけど同じくタッカのリズム)をしっかり出すようにアドバイスされてました。
この付点がこの曲の要だったわけです。冒頭に出てきて以来この付点のリズムは出てきておらず第二テーマの中ごろクライマックスに向けて曲が動いていくところで再び左手の伴奏のなかに出てきます。
そして最後のコーダ部分でも半音階の上昇の下でこのリズムが鳴り響き、その後また不気味に静かにこのリズムが印象的に使われています。
よくよく考えるとこのバラ1は、1831~1835年パリに移った頃に作曲され、ポーランドはロシアに実質的支配されておりそんな中、祖国ポーランドへの想いが込められている曲と言われています。このリズムにはショパンが大切にたくさん作曲してきたポーランドの伝統的な舞曲マズルカのリズムが重ねられていたのではと気付きました。

これに気づけただけでも大興奮ですが、その他にもヒンツさん奏者へのアドバイスはとても勉強になるものでした。

演奏家にとっても信頼できる考え、耳の持ち主のトーンマイスターの方と楽曲に向かえるのはとても面白いことだろうなと思います。

私も自身でマイクを立て、レコーディングを少しずつやりだしています。
そのときに、意思をもって試してみること、録れてる音が自分の求めるものなのか吟味することを心がけようと思います。

質問タイムでは、トーンマイスターが奏者に演奏上のアドバイスをする際に気をつけていることを聞きました。
これは作曲者として奏者に意思を伝える際にも通じるものだなと。そこの信頼関係や、良い演奏を引き出すための声かけがないとより良いものは生み出せないと感じました。

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使用したDAWはSequoia。
編集機能が素晴らしく便利そうで喉から手が出るほど欲しいが、、、お値段が、、、

 

◾︎名芸で公開されているレポートはこちらです。
http://soundmedia.jp/20160703Tonmeisterworkshop/

 

◾︎こちらの写真はお手製の譜面台。ピアの上にのせています。
ホール録音の際、奏者が響きに惑わされてダイレクトな音が聴きづらくなるが、譜面台による遮りを緩和することで音を聞きやすくしその上で微細なタッチのコントロールできるというメリットがあるとのこと。
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この譜面台の試作版を譲ってもらいました♫

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